エディ便り:アラスカシーツーリング〜後編@石橋さんの投稿文です

アラスカMAP
 起きると、やはり雨。急いで食事を済ませパッキングを終え、濡れたテントとはいえ内部だけはこれ以上濡れないようにしながら撤収。桟橋まで全員で荷物の運搬、船への積み込み。艇は船尾甲板に積み込まれ出発を待っている。同乗者は女の子の2人組。といっても彼女たちと話すこともなくサービスのコーヒーを飲みながら初めての体験に不安は募るばかり。その時左舷遠くに鯨が見えた。呼吸のため潮が吹き上がる(ブロウ)。船も速度を落としてくれたが、鯨は深く潜ってたようでブロウも見えないため船は速度を上げ目的地のピックアップポイントを目指す。
 霧にかすむピックアップポイントは、目印に倒木を櫓に組みその上にムースの角を載せたものがあるだけで、狭い砂利だけの海岸。そこにはツーリングを終えた15人ほどの人が濡れネズミになって乗船を待っていた。我々の下船とともに全員で装備・艇を降ろし、乗船者の装備・艇の積み込むを手伝う。このときガイドの渡部さんが「装備が紛れ込まないようチェックして」。安堵の人々と、不安な人(私だけかも)が交差する不思議な雰囲気。渡部さんのフォールデングタイプのカヤックは珍しいらしく何人かがのぞき込んでいた。このタイプの艇はスキンボートと呼ぶらしい。ツアーを終えたグループの「ハヴァ ナイス ツアー」の挨拶が、我々のスタートの合図。
スタート地点
スタート地点
 それぞれの艇に個人装備、共同装備を積み込み靄のなかを漕ぎ出す。しばらく進むと右手に白頭鷲らしいシルエット。前方は遙か彼方。午後過ぎに少し明るくなってきたが景色が大きすぎて、漕いでも漕いでも距離が稼げない気がして滅入ってくる。それに加えて、パドリングウエアー内が汗で蒸れてさらに暑くなり、疲労ぎみとなり「こんなことがまだ3日も続くのか」「今更帰れないしとんでもない所に来てしまった」と一人静かにぼやきながらもパドリングを修行のように続ける。水面にはアシカが顔を覗かせこちらを観ているが、近づこうとするとすぐに潜水。小型のイルカが時たま呼吸のため背中を見せる。水面に浮かぶ氷の固まりも少しずつ増えてくる。潮の満ち干のため氷河が残された海岸の辺りが今日のキャンプ予定地。テントを張る場所を探しながら海岸線に沿って進んでいると、黒い動物がいる。熊にしては体型がスマート。向こうもこちらを観ている。近づいていくと狼らしい。そこから少し離れた場所にキャンプ。
狼の足跡
狼の足跡
 朝、テントを出て砂浜に行くと狼の足跡が多数ある。それを逆に辿っていくと、テントの側を通り昨日の場所へと続いていた。今日は入り江の一番奥にあるミュア氷河を目指す。人工物が一切ないため距離感・遠近感がない景色のなかをパドリング。両側はフィヨルド海岸の地形、氷河に削られた岩肌、そこに滝が流れている。
1日目のキャンプ地点から氷河を望む
1日目のキャンプ地点から
氷河を望む
マックブライト氷河を望む海岸にテントを張り、昼食、カメラ等だけの身軽な艇で目的地へ。そこは、入り江に流れ込む氷河は小さいが水量はかなりありそう。すぐ側で観る氷河の断面は深い感じの澄んだ水色(うまく表現が出来ない!)。戻る途中、小さな氷河を一つ艇に積む。キャンプサイトにつくとウイスキーとグラスが出てきた。砕いた氷河は綺麗に澄んでいる。目の前の氷河を観ながらのオンザロック(来て良かった!)。
2日目のキャンプ地点。すぐ目の前に氷河
2日目のキャンプ地点。すぐ目の前に氷河

石橋さん
 ツアー3日目、食事を終えて出発準備が整ったときには、干潮のため水面は遙か彼方。足首までもぐるような砂浜を荷物、艇の運搬のため往復。引き潮のうちに距離を稼ぐためにあわただしく出発。途中「鮭を捕まえてイクラ丼を食べよう」と川が流れ込む場所に上陸。鮭が産卵のため遡上しているところを、浅瀬に追い込み手づかみ。イクラをしぼりとる。鮭を追いかけているときは野生の血が騒ぐのか、夢中で捕まえていた。そのときに熊の足跡を発見。そこは熊にとっても餌場である。真新しいグリーズリーの足跡に不安が生じたところに渡部さんから、鮭をいつまでも手に持っていると臭いがついて熊が来やすくなるといわれ、急いで手を洗う。その間に潮が満ちてきており、岸に上げた艇が浮かんでいる。こんな所で艇が流れてしまったら帰れなくなる。潮の流れはツアーに大きく影響し、見た目には解らない流れが艇の速度を落とし辛いパドリングになり、またもや苦行となる。今日は出発地点まで戻る予定。ツアーの終わりに向けて、ひたすら漕ぎ続ける。最初は戸惑っていた本物の自然、そこにいられることを実感出来たときにはツアーを終わらせるために、ひたすら漕ぐ。ピックアップ地点に到着し、ツアー最後のキャンプ。
 翌日の朝食は、イクラ丼、イクラの手巻き。でも雨の中での最後の食事。テントを片づけ迎えの船を待っていると、他のグループも集まって来ている。迎えの船が到着。船に乗り込み出発。何故か船はツアーコースに向かって進んでいく。同乗したグループがキャンプ中に熊に出会い、装備をおいて避難してきたためそれを回収にいくとのこと。その場所はいかにも熊が出そうな鮭が遡上してくる川の側。回収されたテントやシュラ、マットは熊の爪で切り裂かれていた。熊と接触したエリアはレインジャーに報告され、その場所はしばらく閉鎖するとのこと。あらためて熊のテリトリーの中に居たことを実感。
 公園内のキャンプサイトでのキャンプ。夕食の支度をしていると目の前の海に鯨のブロウが上がる。そこには鯨が何頭か来ており、アラスカ旅行最後のフィナーレ。翌日は小型機でジュノーに戻り、屋根の有るところで宿泊。屋根の有り難さが身に染みるとともに、ツアーが終わった安堵感、その反面寂しさが混じった気持ちでベットの中へ。
 シアトルに戻る機内では、さらに、アラスカが懐かしく、また戻って来たい。次はユーコンへ行きたいと、気持ちだけはしっかりと、アラスカをパドリングしていました。

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